異常行動をとるように育ってしまった原因がいろいろ指摘されている中に、「自然との接触が少ない子供」という項目があるのは注目に値しよう〔注1〕。
子供じみた、行動の末にハラキリ自殺をとげた小説家として知られる三島由紀夫が、あのように反人間的で異様な男へと堕していったのも、ひとつには自然との接触がまるでなくて育ったことと無関係ではないかもしれない。 なにしろ松の木がわからず、カエルの声も判別できなかったというのだから〔注2〕。
いうまでもなく、人類は自然の一員にすぎない。 地球上の他の動植物と平等の存在であって、水没する山人の文化を記録する意味たがいに助けあいながら共存している。
共存は単に物質的共棲関係にとどまることなく、現代人の浅知恵ではうかがうことのできぬ種類の目に見えぬ共棲関係があるようだ。 ちかごろ流行の「森林浴」なども注目されるゆえんであろう。
この種の見えぬ共棲関係については、むしろ古代人とかいわゆる未開民族のほうがはるかに深い洞察力をもっていた。 そうした洞察力を現代まで継承してきたのは、日本でいえば奥深い山岳地帯のふところに住む「山人」すなわち山の民であった。

その多くはマタギに象徴される狩猟・採集を生活の基本とし、それを反映するさまざまな文化を育て、伝承してきた。 近代西欧に端を発した産業社会は、人類に明らかに「進歩」をもたらしたものの、この進歩は人類滅亡への定向進化と軌を一にする種類のものでもある。
山の民が継承してきた自然との共棲関係と「見えぬ共棲への洞察力」は、こうした「進歩」への反省または修正への一つの手がかりでもあろう。 だが、産業社会によるすさまじい破壊力は、とりわけ日本で酷薄に進みつつある。
列島改造による物理的環境破壊と、高度成長経済政策以来の山村から市街地への人口流出によって、山の民の里は潰滅的打撃を・つけた。 とくに集落や村が丸ごと滅亡する典型は、ダム建設による水没であろう。
これまでに日本の山村の「人類の宝」のような知恵の皇が、どれほどたくさん水没してきたことだろうか。 産業社会はおろかで奢れる人間たちは、核兵器による直接的滅亡と同時進行させながら、ホモサピエンスとしてのみずからの種の拠りどころをも滅ぼしつつある。
「山に教えられ、山に生かされて暮らしてきた」A村・奥面には、このような意味で自然との真の共棲関係への洞察力が保たれてきた。 となれば、それを記録しようとする行為は、郷愁のための死体標本会つくりではなく、この洞察力を村人自身が保ちつづけ、かつ私たちも、人類の滅亡への定肉進化を軌道修正すべくその洞察力に学ぶためのものということができよう。



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